tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

支払能力シリーズ12: 生きてくる日本の労使関係

2016年12月16日 11時05分37秒 | 経営
支払能力シリーズ12: 生きてくる日本の労使関係
 前回、企業の成長と労働分配率は逆相関の関係にあることを指摘しました。これは基本的には、労働の資本装備率が高いほど生産性は上がるという理論と経験則からくるものです。

 企業の成長を望むのは経営者だけでしょうか。日本企業の場合、従業員も同じ立場だと私は考えています。主要国の中でもこうした傾向が強いのは日本とドイツで、ドイツでは伝統的に従業員が企業の株を持つ「パートナーシャフト経営」がありますし、法律としては「労使共同決定法」などで、労使の共同経営参画の意識があります。

 日本では法律はありませんが、従業員も労働組合も、伝統的に自分の給与や賞与企業の業績の関係は基本的に理解しています(これに関しては金属労協(?)の国際比較調査があったと記憶します)。これは長年培ってきた日本的労使関係の結果でしょう。

 この立場から出発すれば、「成長と分配の関係」という命題は、経営者だけのものではなく、従業員も巻き込んだ、労使双方の共通の課題という事になります。
 労働組合でも、従業員の社員会であっても、労働分配率は高いほどいいのではなく、企業成長との関わりで、わが社にとっての適正値があるはずだ、という事になるはずです。

 その意味では、経営計画の策定は、経営者と経営企画室で行うだけではなく、労働組合や従業員代表の参画も得て行うのが適切という事になります。
 計画の段階で労使双方の意見がまとまっていれば、成果(付加価値)の分配の話し合い(春闘の労使交渉)で議論が無用に混乱することはないでしょう。

 例えば、中期5年の経営計画を立てる場合、合理的な計算を積み上げれば、労働分配率は低めの方が成長率は高くなり、結果的に賃金上昇率も高くなるのが普通です。
 これは低めの労働分配率が高めの資本分配つまり利益の増加につながり、その有効な活用、企業のシステムや設備の高度化により、生産性や品質の向上、競争力の強化で成長が高まることによるものです。

 従業員にとっては、労働分配率を多少抑えても、「今後5年間に受け取る給与総額」が、企業成長の加速の結果、より多くなる方が望ましいことは明らかでしょう。

 勿論このプロセスはそう簡単なものではありません。技術開発や機械設備の選択、出店計画や店舗の設計まで多様な要素が絡んできます。

 従業員や労働組合は、そうした勉強もしなければなりません。もちろんそうした部門で働く従業員は、経営者より詳しいかもしれませんが、それが従業員全体に組織的に伝達されることが大きな効果を持つのです。

 近年も、大企業で経営上の不祥事が起きた時、労働組合のチェック機能はどうなっているのかといった意見がありました。
 最近の利益偏重のアメリカ型経営が強い影響力を持つ中で、労働組合のチェック機能は、場合によっては社外重役制度などに増して重要になるのかもそれません。

 1980年代まで、日本的経営が世界から注目された中で、こうした「日本的労使関係」はその核心でしたが、「失われた20年」の中で、こうした意識が、多くの個別企業段階で希薄化してしまっているのは大変残念です。

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